長期投資に潜むリスク
今回のテーマは長期投資に潜むリスクについて解説です。投資にはリスクがつきものです。自分のリスクに合った投資が大事と聞いた。長期投資ならリスクを下げられる株は長く持っていれば負けないから大丈夫、このようにリスクについて様々な意見が見られます。
ですが実は長期投資ならリスクが下がって安心できるは間違いです。リスクを誤って理解すると目的を達成できない可能性があります。
例えば、思っていたよりもリスクが下がらないと値動きに耐えられなくなるでしょう。早々に売ってしまい長期保有できない可能性があります。また長期保有自体はできたとしても、目標を達成できない可能性もあります。
例えば子供の学費に必要な金額が未達となるがそのときになって慌てるでしょう。そこで今回は、長期投資とリスクの関係をわかりやすく解説します。
長期投資で減らせるリスクと減らせないリスクを紹介します。今回の投稿を見ればリスクの理解が深まるでしょう。思っていたのと違ったと、焦ることを減らします。
また今後投資を勉強していくにあたっても、今このリスクのことを話しているんだなとすっきり理解できるようになります。そうすれば、間違った理解で投資して失敗することを減らせるでしょう。
それでは早速、解説していきます。
長期投資でリスクは下がる?
株式投資では長期、積立、分散が良いと言われます。書籍でも長期、積立、分散を推奨するものが増えてきました。また長期投資でリスクが下がるという説明もよく見かけます。
例えば金融庁のホームページには次のように記載されています。『投資期間が長いことで、投資による価格変動リスクが小さくなり、安定した収益が期待できます。』
長期投資は国のお墨付きということもできるでしょう。名著ウォール街のランダムウォーカーにも長期投資でリスクは減ると書かれています。著者バートン・マルキールは次のように言っています。
『株式投資のリスクも投資期間に応じて減少するのだろうか。答えはもちろんイエスである。株式を長期間保有し、一度買ったら多少の価格変動があっても持ち続けるという基本方針を貫けば、リスクも全部ではないがかなりの部分を減らすことができる。』
一方で長期投資でもリスクは減らないという意見もあります。例えば楽天証券の客員研究員である山崎氏は次のように言っています。
『長期投資ではリスクが縮小するとする説明は誤りである。投資期間が長期化するとリスクは拡大するが正しい認識だ。』
どちらも著名な経済の専門家です。ですが、長期投資とリスクについて2人の意見は異なります。投資期間が長期化するとリスクは減少する。投資期間が長期化するとリスクは拡大する。全く反対の意見ですね。これは私達投資家にとって大きな問題です。
長期投資ならリスクが下がると思っていたのに本当はリスクが下がらない。そうなれば安心して長期投資をすることができません。日々の値動きが気になって耐えられずに手放してしまう可能性があります。リスクは減るのか減らないのかどっちなんだということです。
結論から言うとリスクという言葉にはいくつかの意味があります。その中で長期投資で減るリスクと減らないリスクがあります。
ここからは投資におけるいくつかのリスクについて長期投資との関係を紹介します。紹介するリスクは次の4つです。
①年率リターンのばらつき
②将来資産額のばらつき
③元本割れの確立
④短期間の値動き
順番に見ていきましょう。
リスク①:年率リターンのばらつき
マルキールの言うリスクは年率リターンのばらつきです。株式を数年間保有したとき、1年あたりのリターンはどの程度になったかという意味です。
例えば1年間保有した場合を見てみましょう。成績の良かった1年間は資産が52%も増えました。一方で成績の悪かった1年間は37%も減りました。平均値で見ると資産は10%の増加です。ですがばらつきが大きすぎて、平均をあまり信用できません。
株を1年間保有したらどの程度のリターンになったかと聞かれても、ぶれが大きくて答えにくいということです。投資期間が同じでも、いつ投資するかによってリターンはかなりばらついたと言えるでしょう。
一方で保有期間が長くなるほど年率リターンのばらつきは小さくなります。1年しか保有しない場合、最大リターンと最小リターンの差は90%もありました。
一方25年間保有した場合差は11%しかありません。一番良いときでも資産は1年あたり17%しか増えず、一番悪いときでも6%増えています。1年あたりの投資リターンは長期投資になるほど、平均値に収束するということです。これがマルキールの言う長期投資でリスクは減るという言葉の意味です。
つまり、保有期間が長くなるほど年率リターンは平均値に収束する、年率リターンのばらつきは小さくなる。このようなことがわかります。長期間保有するほどリスクは小さくなると言えるでしょう。
リスク②:将来資産額のばらつき
年率リターンのばらつきは確かに保有期間が長くなるほど小さくなります。ですが、将来の資産額のばらつきは保有期間が長くなるほど大きくなるのです。
最初に100万円をS&P500投資した場合、実際の資産額が保有期間ごとにどうなったかということです。例えば保有期間が1年の場合、最大値は150万円、平均値は108万円、最小値は50万円でした。
保有期間が5年の場合はどうでしょうか?最大値は320万円、平均値は136万円、最小値は40万円でした。どの保有期間でも年率リターンは先ほどと同じです。
保有期間が長いほどばらつきは小さくなると言えるでしょうか?ばらつきは大きくなると答える人が多いでしょう。
例えば保有期間が1年の場合、最大と最小の差は100万円しかありません。100万円を投資したら良くも悪くも50万円しか増減しなかったということです。
ですが、投資期間が5年に延びると差は280万円に広がりました。良いときは資産が220万円も増え、悪いときは60万円も減りました。保有期間が10年、15年と長くなるほどこの差は広がっていきます。つまりこういう期間が長くなるほど、資産額のばらつきは大きくなるということです。
長期投資はいつ投資するかによって投資後の資産額が大きく変わると言えるでしょう。従って資産額で見ると長期投資ほど結果はばらつきリスクは大きくなります。これが山崎氏の言う長期投資でリスクは拡大するという言葉の意味です。
資産額のばらつきが大きくなるとどうなるでしょうか?もし仮に投資の目的が子供の学費だとしましょう。大学の学費として、20年後に400万円が必要と設定します。100万円を投資すれば20年後の資産額の平均は375万円です。375万円あれば必要な学費400万円のうちほとんどをカバーできます。
なので、今100万円を投資しておけば後のお金は自由に使っても良いと考える人がいるかもしれません。ですがこのような考え方は少し危険です。先ほど説明したように、保有期間が長くなるほど将来の資産額のばらつきは大きくなります。
20年後資産は平均で375万円になりますが、最小値だと60万円まで減る可能性もあります。60万円だと必要な学費400万円に対して340万円も足りません。一般的なご家庭にとってすぐに用意するのは難しい金額ですよね。
実際に学費の必要なタイミングが近づいてきて、あれ、もしかして学費が足りないんじゃないだろうか。なんてことになったら大変です。貯金で何とかなれば良いですが、十分でなかったら厳しいでしょう。もし足りない場合、子供に進学を諦めてもらうか進路を変えてもらう必要もあるかもしれません。まさにリスクが高いと言えるでしょう。
将来の資産額のばらつきが大きいとこのような事態になる可能性があります。目標金額の重要度が高く、投資以外の方法で挽回できない場合、目標を達成できない確率が高くなるということです。
一方で投資期間が短い場合、ばらつく資産額の幅は小さいです。例えば1年間の投資なら最大でも100万円しか変わりませんでした。従ってもし投資の収益が未達になったとしても、貯金から補填しやすいでしょう。
まとめると次のような投資は注意が必要です。目標金額を達成する時期が重要。想定している保有期間が長い、リターンが下振れした場合に補填できる貯金や収入が乏しい、このような条件において長期投資はリスクが大きくなると言えます。
逆にこれらの条件に当てはまらない場合、長期投資のメリットは大きいです。後ほど紹介するように元本割れのリスクを減らせるためです。
長期投資のメリットを最大限に活かせるのは次のような場合です。目標金額を達成する時期の重要度が低い。リターンが下振れしても補填できる貯金や収入がある。このようになります。
目標金額の重要度が低いケースとしては例えば老後資金が挙げられます。仮に投資で目標金額を達成できなかったとしてもその分長く働いたり、慎ましく暮らせば良いためです。
また、投資とは別に貯金もしっかりしている人や、補填できるだけの収入がある人も長期投資は向いてます。投資は余裕資金で行うという原理原則を守っていたら大丈夫でしょう、逆に背水の陣で挑む投資において長期投資はリスクが大きくなるといえます。
リスク③:元本割れの確率
ここまで紹介した長期投資とリスクの関係をまとめると次のようになります。
保有期間が長いほど、年率リターンのばらつきは小さくなり、保有期間が長いほど、将来の資産額のばらつきは大きくなる。
さらに注目したいリスクとして元本割れの確率があります。人間は損失を嫌いますから、元本割れしないことは非常に重要です。
ちなみに年率リターンの平均値と標準偏差がわかると元本割れ確率を簡単に計算できます。使うのはExcelやGoogleスプレッドシートのNORMDIST関数です。例えば、先ほどのS&P500の例で計算してみましょう。
保有期間が5年の場合、年率リターンの平均値は6.4%、年率リターンの標準偏差は8.0%でした。このとき、元本割れの確率は21%と計算できます。
保有期間が1年の場合、元本割れの確率は34%です。つまり3分の1の確率で元本割れするということです。ですが、保有期間が長くなるほど確率は小さくなります。15年で5%、20年で2%、25年で0%。このあたりになると元本割れはほとんどしませんでした。
しかもこのデータは値上がり益でしか考えていません。分配金を考慮するともっと短期間の保有でも元本割れはしなかったでしょう。
ただしこのデータには注意点もあります。過去のデータなのでこれからもそうなるとは限らない、という点です。
それでも長期投資で元本割れの確率が小さくなったという事実は非常に心強いでしょう。弱気相場でも投資を続けるにあたり強力なエビデンスとなります。
リスク④:短期間の値動き
リスクという言葉には、短期間の値動き、価格変動の幅、標準偏差という意味もあります。株式投資ではこの使われ方が最も一般的です。
投資信託について調べるとリターンとセットで記載されることが多いです。
このリスクは次のようにして計算します。過去のある期間の値動きについて日ごとや月ごとなど比較的短期間の騰落率を集計する騰落率の平均値と標準偏差を求める日ごとや月ごとの標準偏差を年換算する。
標準偏差は平均値からのばらつき度合いです。平均値から乖離する点が多いほど標準偏差は大きくなります。逆に全てのデータが平均値付近に揃っていたら標準偏差は小さくなります。
標準偏差が大きいほど価格変動リスク、つまりボラティリティが高いことを意味します。そのような商品は短期の値動きが荒いです。
逆に標準偏差が小さいほど短期の値動きは小さくなります。毎日の株価が気になる人にとって重要な指標です。このリスクは株式を長期保有していても小さくなりません。
例えば同じ商品に投資する場合1日で売却する予定の人も、20年もつ予定の人も抱えるリスクの大きさは一緒です。これは保有期間の長さと日々の値動きの大きさが相関しないためです。
20年保有したら毎日の値動きが小さくなるとありがたいですがそうはなりません。長期投資を考える上で注意点の一つです。
このリスクを小さくするためにはポートフォリオが重要です。一つの商品で考えるのではなく、資産全体で考えます。株式と相関の低い資産を組み合わせて、短期の値動きを小さくすると良いでしょう。
組み合わせる資産としては例えば債券や金などが挙げられます。株だけにしないポートフォリオが重要です。まさに長期、積立、分散と言えるでしょう。
まとめ
それではまとめていきましょう。今回は、長期投資とリスクの関係を紹介しました。本日紹介したリスクは次の4つです。
①年率リターンのばらつき
②将来資産額のばらつき
③元本割れの確率
④短期間の値動き
年率リターンとは、数年間保有したときのリターンを1年当たりに換算した値です。保有期間が長くなるほど、年率リターンは平均値に収束します。結果、年率リターンのばらつき、すなわちリスクは長期投資によって小さくなっていきます。
将来の資産額のばらつきは、保有期間が長くなるほどばらつきが大きくなります。100万円を投資した場合、1年後の資産額は最大と最小でも100万円の差しかありませんでした。ですが5年間保有するとその差は280万円に広がります。10年、15年と保有期間が長くなるほどこの差は広がっていきました。資産額のばらつきという意味では、保有期間が長くなるほどリスクは大きくなります。
このばらつきが重要になるのは次のような場合です。目標金額を達成する時期が重要。想定している保有期間が長い。リターンが下振れした場合、補填できる貯金や収入に来てほしい。このような条件において長期投資はリスクが大きくなるといえるでしょう。
今回紹介した4つのリスクは次のようにまとめられます。
【長期投資で小さくなるリスク】
・年率リターンのばらつき
・元本割れの確立
【長期投資で小さくならないリスク】
・将来資産額のばらつき
・短期間の値動き
リスクという言葉は、文脈によって様々な意味で使われます。このように整理して覚えておくと今後の役に立つでしょう。書籍や動画でリスクという言葉が出てきたらどういう意味で使っているか注意してください。発信者の意図を正しく理解することで、間違った投資をする確率が減らせます。
そうすれば今後いろいろな意見に出会っても、適切な投資を続けやすくなるでしょう。また長期投資で減らないリスクを小さくするためには、ポートフォリオが重要です。
以上、これからの投資の参考になりましたでしょうか?
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